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東京家庭裁判所 昭和58年(家)5155号 審判

申立人 マイケル・シュミット 外一名

主文

申立人両名が養子縁組することを許可する。

理由

1  申立の趣旨

申立人らは、主文と同旨の審判を求めた。

2  管轄

(1)  本件はいわゆる渉外養子縁組事件であるが、申立人両名の住所がわが国にあるから本件についてわが国も国際裁判管轄権を有すると解することができる。

(2)  法例一九条一項によれば、縁組の要件は各当事者について各本国法によつて定むべきこととされているから、申立人マイケル・シュミットについてはドイツ連邦共和国法、申立人田坂清一については日本法を各適用すべきことになる。日本国民法では成年者を養子とする場合は縁組する旨の合意と届出をすることで成立するが、ドイツ連邦共和国民法では養親となる者と養子となる者との申立に基づき後見裁判所(後見事件等を取扱う区裁判所)が宣告することによつて成立する旨定められている(同法一七六八条)。ところで、わが国にはドイツ連邦共和国における後見裁判所に直接該当する裁判所は存在しないが、上記後見裁判所で取り扱われる事務はわが国では主として家庭裁判所が担当していること及び養子縁組の当否は家庭に関する事件を取り扱う家庭裁判所において判断するのが相当な事項と解することができるから、結局本件については当事者の住所地を管轄する当裁判所が管轄権を有する。

3  当裁判所の認定した事件

本件記録によれば、次の各事実を認めることができる。

(1)  申立人マイケル・シュミットは、昭和三七年一月単身来日し経済活動を行つているが、昭和五二年一〇月四日永住権を取得した。

(2)  同人は、現在○○○○○○販売会社の副社長として勤務し年約九〇〇万円の収入を得ている。

(3)  申立人マイケル・シュミットは、昭和五二年夏頃知人の紹介で当時○○大学ドイツ語科三年に在学中の申立人田坂と知り合つて同人にドイツ語を教えるようになつたが、その後同人一家とも交際するようになつた。

申立人田坂は当時アメリカに留学する希望をもつていたため一週間に三日程申立人マイケル・シュミット方へ泊り込んで英語の勉強をするようになつて同人と親密の度を増した。

(4)  申立人田坂は、上記大学卒業後昭和五三年七月頃アメリカの○○○○○大学大学院に入学する予定で渡米したが、申立人マイケル・シュミットが病気入院したため約一か月で帰国し、以後同人方で同人と同居するようになつて現在に至つている。

(5)  申立人マイケル・シュミットは、申立人田坂の留学を止めさせた結果となつたことに責任を感じて、同人の進路の相談にのり、生活の面倒をみてきたが今後は同人と養子縁組し養親として同人と生活していくことを希望している。

(6)  申立人田坂は、上記帰国後二年間程○○大学の聴講生をした後デザインの勉強を始めて現在に至つているが、申立人マイケル・シュミットとも親和しており、現に同人と親子のようにして生活しているため同人と養子縁組する希望を有している。

(7)  申立人両名の間に倫理上問題となる点はない。

(8)  申立人田坂の両親も申立人両名が養子縁組することに同意している。

4  当裁判所の判断

(1)  前記のように申立人田坂については日本法を適用すべきところ、日本国民法によれば成年者を養子とする場合には縁組する旨の合意と届出によつて成立し、家庭裁判所の許可は要しないものとされている。

(2)  申立人マイケル・シュミットについてはドイツ法を適用すべきところ、ドイツ連邦共和国民法によれば、成年者を養子とする場合は養親となる者と養子となる者との申立に基づき後見裁判所が宣告する(同法一七六八条)、養子縁組は養子となる者の福祉に役立ち、かつ、養親となる者と養子となる者との間に親子関係の発生することが期待さるべき場合に、許される(一七六七条二項、一七四一条一項)、婚姻をしていない者は単独で養子をすることができる(一七六七条二項、一七四一条三項)、単独で養子をしようとする者は二五歳に達していなければならない(一七六七条二項、一七四三条二項)、養親は完全な行為能力者でなければならない(一七六七条二項、一七四三条四項)、成年者は倫理的に正当とされるときは、養子となることができる、養親となる者と養子となる者との間に既に親子関係が存在しているときは特に倫理的に正当とされるべきものとする(一七六七条一項)とされているが、上記認定の事実によれば、本件縁組は倫理的正当と認められるばかりでなく、上記法条に照らし記録上申立人両名について縁組の成立について障害となる事由をみいだすことはできない。

(3)  よつて当裁判所は、申立人両名に対する養子縁組の宣告に代え、申立人両名の本件申立を許可することとして、主文のとおり審判する。

(家事審判官 石田敏明)

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